2012年8月10日金曜日

「21世紀の中国はジャーナリストにとって天国」:奇妙奇天烈な出来事の発生

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●写真は北京の新聞販売店。



レコードチャイナ 配信日時:2012年8月10日 7時56分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=63622&type=0

<コラム・巨象を探る>
「モノ言う民衆」と共産党政府が熾烈な攻防戦
―3億人の微博ユーザーが民主化促す?


 中国では、ネット人口が5億5000万人に達し、「事実」はあっという間に伝播する。
 特にミニブログのユーザーは約3億5000万人に達し、さらに急増中。
 彼らは
 「モノを言う民衆」
であり、その力の拡大が共産党政権にとって脅威となっている。

 中国では、インターネット人口が5億5000万人に達し、携帯電話やスマートフォンのメールを操る人口も6億人以上に膨らむ中、「事実」「真実」はあっという間に伝播する。

 中国公安当局は懸命の情報規制を行っているが、完全にフォローし規制するのは不可能。
 さらに近年、中国版ツイッターのミニブログ(微博=ウェイボー)が急速に普及(米ツイッター、フェイスブックは禁止されている)。
 市民が発信する「ニュース」「情報」が瞬時に駆け巡る。
 ミニブログのユーザーは約3億5000万人に達しさらに急増中。
 彼らは「モノを言う民衆」であり、その力の拡大が共産党政権にとって脅威となっている。

 2011年7月の高速鉄道衝突脱線事故では当局が事故の翌日早朝に事故車両を穴に埋めるという異常な行動に出た。
 それがインターネット上や新聞報道で取り上げられたため、あわてて北京中央が動き、温家宝首相自らが乗り出して事態の収拾に乗り出さざるを得なかったのは記憶に新しい。

 以前ならば、警察や人民解放軍を大量動員して、事故現場への立ち入りを封鎖し、闇に葬り去ることもできたかもしれないが、情報が一気に伝播する現代では止めようがない。
 中国各地で起きている公害や汚職への告発も、これらネット情報がきっかけで大きく社会問題化。
 当局も「公害工場」の廃止や「汚職」の摘発をせざるをえなくなる事例が続出している。

 今年7月下旬に王子製紙の中国江蘇省にある工場の排水計画をめぐり、環境汚染や健康被害の懸念があると主張する地元住民ら5千人以上が、排水管の建設中止を求める抗議デモを展開。
 約100人が地元政府の庁舎に乱入するなど暴徒化し、警察隊と衝突した。
 デモ参加者の一部は、王子製紙に協力して計画を推進してきた地元政府トップを「売国奴」と批判。
 中国版ツイッターやネット上では、「批判」や「デモ参加呼びかけ」が飛び交った。
 結局、地元当局は、排水管の建設中止を余儀なくされた。

ネット空間を制したものが勝つ

 薄煕来・中央政治局委員の失脚劇でも、
 「腹心の王立軍・重慶市副市長が米国総領事館に駆け込んだ」
とのミニブログ「微博」情報がきっかけとなった。
 従来なら、政権中枢の動きは、ほとんど外に漏れることはなかったが、ウェイボー上を飛び交う情報が重要な役割を果たしたようだ。

 「今や中国は世界最大のネット王国。
 共産党政府も情報のコントロールは困難」(中国メディア幹部)
という状況で、当局は、これらネット情報が政府批判につながり、反政府運動を誘発しないか神経をとがらせている。

 特に中国当局が警戒しているのが、ネット上の書き込みがきっかけで、格差をはじめ、物価高、就職難など国民の不満に火がつき、反体制運動に直結すること。
 中国当局は5万人ものネット監視員を動員し、
24時間態勢でユーザーの書き込み内容、言論を監視・削除している。
 さらには巨額の費用を投じて「グレート・ファイアーウォール」(海外サイト閲覧制限)などシステムを構築しているが、インターネットユーザーすべての言動をチェックすることは不可能だ。

 事実、インターネットの影響力が強まっていることについて中国政府幹部は
 「経済のグローバル化や政治の多極化、技術の進歩がすさまじい勢いで押し寄せている。
 新旧メディアの境界、国内と国際問題の境界がなくなった。
 政治や文化などの問題も境界がなくなっている」
と指摘、
 メディア管理は「危機に直面している」
と率直に吐露している。

■人気新聞社への閉鎖措置、抗議殺到で撤回に

 既存の伝統的なメディア中国当局は「情報の秩序」の重要性を強調している。
 新華社、人民日報など官制メディアには
 「社会の安定・発展を促すニュース」
を選択して報道すべきだとの「読者啓蒙論」が強く、
 「プラス情報、マイナス情報すべて報道し、読者の判断に委ねる」
との日本メディアの考え方とは異なる。
 高速鉄道事故報道で政府批判が目立った北京の人気新聞「新京報」を共産党宣伝部の直接管理下に移行したり、当局の意に沿わない記事を掲載した新聞の編集幹部を更迭させるなどの対策を講じている。

 今年8月初めには、多くの読者を持つ経済新聞『経済観察報』が北京市文化局の違法出版物取締局によって閉鎖が言い渡された。
 非公式情報では、7月下旬の集中豪雨に関する同社の報道が北京市当局の逆鱗に触れたことが理由とされる。
 この集中豪雨をめぐり、同紙は被害の最も大きかった北京市房山区を詳細に取材し、開発優先の姿勢が災害の主原因となったことを暴いた。
 ところが同新聞閉鎖に抗議する微博(中国版ツイッター)上の書き込みが殺到。
 当局は閉鎖措置を撤回を余儀なくされた。

 中国では新聞社、発行部数とも多く、新聞の間の競争も激しい。
 読者は、官僚の不正、汚職、公害、食品の安全などの積極的な告発記事を求めている。
 中国の若い記者の多くは「夜討ち朝駆け」で「不正」や「社会悪」追及に生きがいを見出している。
 このため、過激な論調のものが出回りやすいが、
 共産党政権は自身に「刃」が向かわない限り、容認し、社会浄化につながるとして推奨している面さえある。

 インターネット・メディア、なかでも中国版ツイッターは、情報がゲリラ的に広範囲に伝わり、当局が後から削除してもそれまでの数十分間に転送されてしまっている。
 実名登録制を導入するなど管理体制を強化しているが、効果はあまり上がっていない。

 ある中国有力新聞の編集幹部は、
 「21世紀の中国はジャーナリストにとって天国。
 取材のネタが豊富にあり、
 奇妙奇天烈な出来事がひっきりなしに発生
する。
 また、現代の電子技術の発展により、事実と真相の収集や伝達においてかつてないほどの可能性を実現した。
 情報の開放についてはまだまだ完全とはいえないが、すでに開かれた中国が再び情報を封鎖する時代に戻ることはないだろう。
 さらに国民の文化レベルが向上したことにより、真相に対する関心や探究心はますます強まるはずだ」
と自身のミニブログに意見を掲載した。

 中国当局がメディアの発信する情報を完全にコントロールできた時代は終えんしつつあると見ていいようだ。
 「中国民主化」を促す起爆剤となると見るメディア関係者も多い。

<「コラム・巨象を探る」はジャーナリスト八牧浩行(Record China社長・主筆)によるコラム記事





【国家の品格=ゼロ】



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